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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和39年(少)1079号 決定

少年 A・H(昭二六・二・一生)

主文

この事件を北九州市児童相談所長に送致する。

北九州市児童相談所長は、少年を親権者の意思に反しても教護院に入所せしめることができる。

少年に対して、昭和三九年七月二九日以降、通算して一八〇日を限度としてその行動の自由を制限する強制的措置をとることができる。

理由

少年は、小倉警察署警視正石橋政太作成にかかる昭和三九年五月四日付及び同年七月四日付各児童通告書記載の各触法行為についていずれも北九州市児童相談所長から児童福祉法第二七条第一項第四号、少年法第三条第二項に則り当裁判所に送致がなされ、更に同児童相談所長から、少年には前記五月四日付児童通告書記載の如き触法行為があり、すでにその行為は常習化しており、右児童相談所における再三の一時保護及び教護院収容にもかかわらずいずれも即日無断退去して居つかず、児童福祉法による強制措置を伴わない保護は全く意味をなさないものとして前記送致に併せて児童福祉法第二七条の二、少年法第六条第三項に則り、少年に対する強制措置申請がなされたものである。

当審判廷における少年の供述によれば前記各触法行為はいずれもこれを認めることができ、各刑法第二三五条(共犯の分については更に同法第六〇条)に触れるので、少年の非行性及び要保護性についてみるに、当審判廷における少年及び少年の実母O・S子の各供述の外、本件記録及び北九州市児童相談所児童記録によれば次の事実が認められる。

少年は現在、学齢的には中学二年生であるが、すでに小学校六年生時の六月頃から盗みが始り家出をくり返すようになつたので、その頃北九州市児童相談所より福岡学園へ送られたが入園後二、三日後から三回にわたり逃走を繰り返し、通算しても約一週間位しか居つかぬまま実母のもとに帰宅し、その後、家出、浮浪、不良交友が多くなつて今日まで約二年間に警察署より児童相談所への通告処分は一六回にわたり、実に約五〇回に及ぶ犯行を繰り返すに至り、その内容も置引、万引、空巣盗から近頃では恐喝まで犯すようになり、その被害金額も数万円に及ぶこともしばしばであつて、その非行性は著しく亢進していることが窺われる。

しかも少年の家出、浮浪癖は依然として治まらず、中学入学後も殆んど登校せず、従つて一年余を経た今日もなお原級にとどまつている有様で、その知能程度はIQ88で性格的にもきわめて幼稚で未熟であり、意思不安定で即行性があつて、犯行自体に対する態度もきわめて安易で罪悪感なく、不良グループと共にしばしば家出しては前記の如き犯行をくり返し夜はビル屋上や空家に寝泊りするなどの自由放縦な生活をくり返している。

一方その家庭をみるに実父は現在強盗罪にて服役中、異母兄は横浜の工場で働いてはいるが窃盗保護事件により保護観察中であつて、少年は運送会社の住込炊事婦をしている実母と二人暮しをしているが、母も仕事があるため少年の監護にまで手がまわらず、母が注意しても悪友と家出をしては犯行を繰り返すありさまで、母も現在では少年の指導監護の意欲を失い、在宅による補導育成は殆んど期待できない。

以上の諸点を綜合して考慮すると、結局この少年についてはこれを施設に収容保護し、相当の期間規律ある生活の訓練をなすことが必要であるが、少年が一四歳未満である点及び今後における保護の実施の円滑適正を図るために教護院における矯正教育を期待して事件を北九州市児童相談所長に送致すると共に少年の家出浮浪癖並びに前回教護院収容の際における再三にわたる逃走経験を有することに鑑み、矯正教育の目的を達するためにはその収容期間中逃走の虞れがあるときは、適宜少年の行動の自由を制限する閉鎖寮等を利用することもやむを得ないものといわねばならず、その強制的措置をとりうる限度は向後通算して一八〇日間をもつて相当と思料する。

よつて少年法第一八条第一項第二項に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 淵上勤)

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